Dr.コラム
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パーキンソン病のリハビリに当たってのワンポイントアドバイス(2)
―パーキンソン病のコペルニクス的転回―

2011年2月9日
横浜なみきリハビリテーション病院 院長 神経内科
阿部 仁紀

 前回に続き、パーキンソン病の非運動症状の話です。
 心とは何か?
 実は、神経症状はすべて、心(精神症状)で説明可能です。ここが、医師が一番間違いを起こすところです。'こころ'で説明するのは最後です。この順番が非常に大切です。例えば、(運動)麻痺が起こっても、心で説明が可能です。しかし、初めから心で説明はしません。神経-筋の構造(structure)や機能(function)の異常(器質的障害;organic disorder、機能的障害;functional disorder)がない、説明がつけられないときに、どうしようもなく、神経内科的には、'こころ'が原因と説明します(精神科的には、'こころ'も脳機能の障害と考えるようです)。
 では、'こころ'とは?'こころ'にはいろいろな意味があります。
'こころ'とは?
と分ける考えもあります。
 一方、こころの問題でも、見るひと(見える人)が診なければ、見えません。実際やればできるのですが、意欲が沸かない人に向かって、「やればできるのに、なぜしないのか」「甘えているから、手伝わなくていい」「できるだけひとりでさせるべきだ」などと言う人がいます。しかし、この患者さんは、アパシー(やる気の出ない病態)なのです。やる気が出ない病態なのに、無理やりやれというのは、目の見えない人に、「なぜ、物を見ようとしないのか。」と言うのに等しい。患者さんにとっては拷問です。
 イマニュエル・カント(1724-1804)は、「認識が対象に従うのではなく、対象が認識に従う。」ことを発見し、「コペルニクスの着想(コペルニクス的転回)と似たところがある『純粋理性批判』」と書いております(自分ですごいというところが、すごいというか、西洋人的です。しかし、この意味では、紀元前にユリウス・カエサルが「人は自分の見たい現実しか見ない」と言っておりますが…)。対象が認識に従うとは、例えれば「見る人によっては、その人が、怠け者にしか見えませんが、別な人が診れば、アパシーと言うことになる。」と言うことです。アパシーの治療は、困難です。でも、悪化させることを防ぐことはできます。まず、アパシーの病態を良く理解することです。患者の家族を含めた人々(環境)が、患者を怠け者とみるか、病気だからと温かい目でみるのとでは、患者の受けるストレスが全く異なります。環境(周囲の認識)を変えることも、病気のコントロールには非常に大切と思っております。我々を含めた周囲の環境が、その病態を理解していない、誤った認識を持っていることが多いのですが、患者(様、さん)も、実は、自分のことが見えていない、誤った認識(認知のゆがみ)を持っていることが、よくあります。そして、その治療も、目に見えない症状だけに、困難が付き纏います。ソクラテスは「無知の知」を無知の人に指摘して、無知の人々に殺されてしまいました。かように、古来より、無知を指摘する(無知のベールを剥ぎ、誤った認識を正す)ことには困難が付き纏っているようです。神経内科と言う世界は、無知を指摘する世界ではありません。そこにいれば、自ずと認識力が出てくる世界です。「神経内科力(界)を広めねばならない」と日々思い、このような文章を綴っている次第です。
 ちなみに、カント先生と同様に自慢させていただきますと、in vivoでのanoikisを世界最初(1998年)に発表したのが私ですが(googleでanoikis oligodendrocyteで検索するとトップに載っております)、やっと当たり前となっております(anoikisとは細胞の死のプロセスです。細胞は周囲の環境とうまく折り合って生存しています。細胞が、周囲の環境から孤立し、ホームレスになると、孤独死をしてしまいます。「乏突起膠細胞(oligodendrocytes)がワーラー変性という環境の厳しい変化の中で、孤独死する」というのが、論文の趣旨です。これは、細胞あるいは組織レベル(ミクロ)のお話だけでなく、動植物(マクロレベル)すべてに通じる哲学(特に最近話題の無縁社会の孤独死)を含んでおります。
 我々は、環境によって大きく影響を受けますが、環境を選ぶことも出来るし、環境を変える力もあります。環境が変わる(変える)ことで、自分も変わる(変える)ことも可能です。リハビリという環境を選ぶのは、患者(様、さん)の意志です。また、患者周囲の人々は、その一挙一動が、患者に影響を与える、重要な環境であると思われます。

参考文献

  1. イマニュエル・カント『純粋理性批判』
  2. Abe Y, Yamamoto T, Sugiyama Y, Watanabe T, Saito N, Kayama H, Kumagai T. "Anoikis" of oligodendrocytes induced by Wallerian degeneration: ulterastractural observations. J Neurotrauma. 2004 Jan;21(1):119-124.
  3. Y Abe, T Yamamoto, Y Sugiyama, H Kayama, T Watanabe, N Saito, T Kumagai. "ANOIKIS" OF OLIGODENDROCYTES INDUCED BY WALLERIAN DEGENERATION: ELECTRON MICROSCOPIC OBSERVATIONS. J Neurotrauma. 1998 Oct 15(10) 853.

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