院長コラム
最前線ドクターならではの医療情報をお届けします

2018年 新年度のご挨拶

2018年5月7日
横浜なみきリハビリテーション病院 院長 神経内科
阿部 仁紀

EBMとは

 現代医学の父、William Oslerの言葉1)
The practice of medicine is an art, based on science.
医療の実践(治療)はアート(創意工夫)である。そしてそれは、科学に基づくものである。

 一方、これと似た言葉にDavid Sackett先生やGordon Guyatt先生によって提唱されたevidence-based medicine(EBM)2)があります。

 南郷栄秀先生3)は、EBMを下記のように説明しております。

エビデンスに基づく医療(evidence-based medicine: EBM)が提唱され四半世紀。その言葉は浸透したが、誤解も多い。EBMはエビデンスを盲信するものではない。エビデンスを踏まえたうえで、患者の病状や周囲を取り巻く環境、患者の価値観、医療者の臨床経験を考慮し、一人ひとりの患者でベストな診療を行う、個別化医療のツールである。

EBMは5つのstepを踏む。

  1. 問題の定式化
  2. 問題についての情報収集
  3. 情報の批判的吟味
  4. 情報の患者への適用
  5. 1~4のstepの振り返り

エビデンスを患者に適用するstep4が、EBMで最も重要である。診療上の決断に影響する要因は次の4つである(図;文献4より引用)。

clinical expertise
  • ・Clinical state and circumstances 臨床状態と環境
  • ・Research evidence
  • ・Patients’ preference and actions 患者が選択と行動
  • ・clinical expertise 臨床的熟練

『臨床のためのEBM入門』5)の『序論:EBMの哲学』では、
EBMの二大原則
 患者のケアに対する特有なアプローチであるEBMには2つの大原則がある。第1に、エビデンスだけでは臨床判断を下すには決して十分ではない。判断を下すには常に利益とリスクや不便さ、代替治療にかかる費用などを天秤にかけなくてはならない。そして、その際には患者の価値観を考慮に入れなくてはならない。第2に、臨床診断の指針としてのエビデンスにはヒエラルキーがある。」とあります。

 EBMという乾いた言葉には、患者に対する熱い哲学が含まれているのを忘れてはいけないと思われます。EBMはresearch evidence(診療ガイドラインを含む)を患者に押し付ける医療(料理本医療;cookbook medicine)ではなく、上記を繰り返しますが、エビデンスを踏まえたうえで、患者の病状や周囲を取り巻く環境、患者の価値観、医療者の臨床経験を考慮し、一人ひとりの患者でベストな診療を行う、個別化医療のツールであるのです。医療者は満足したが、患者・家族は不満足といったことにならないように気を付けなければならないように思われます。

 当院では全職員がチームとなって患者さん一人ひとりの病気を理解し、適切な対応をとれるよう務める「全職種連携によるチーム医療」に取り組んでいます。その医療のもとになる考えが「EBM」という言葉です。EBMという言葉を正しく理解し、日々の臨床を実践することが大切であると思われます。

文献

  1. Osler W. Teacher and student. In: Osler W. Aequanimitas, 1932, p35, Blakiston, Philadelphia.
  2. Evidence-Based Medicine Working Group: Evidence-based medicine. A new approach to teaching the practice of medicine. JAMA 1992; 268: 2420-2425.
  3. 南郷栄秀. Evidence-based medicine: 診療現場でのプロブレムの解決法. 日内会誌 2017; 106:2545-2551.
  4. Haynes RB, Devereaux PJ, Guyatt GH. Physicians’ and patients’ choices in evidence based practice. BMJ 2002; 324:1350.
  5. Gyatt G, Rennie D. User’s Guides to the Medical Literature―Essentials of Evidence-Based Clinical Practice; 2002.〔古川嘉亮, 山崎力・監訳. 臨床のためのEBM入門 決定版 JAMAユーザーズ・ガイド. 東京: 医学書院; 2003. P7.〕

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