パーキンソン病のリハビリに当たってのワンポイントアドバイス(1)
―パーキンソン病のパラダイムシフト―
2011年1月17日
屏風ヶ浦病院 副院長 神経内科
阿部 仁紀
21世紀はパーキンソン病の"パラダイムシフト"が起こった世紀です。パーキンソン病といえば、振戦、無動・寡動、固縮、姿勢保持障害が4徴と呼ばれ、運動症状で定義づけられておりました。 しかし、2002年に、Braak教授は、(仮説の通りではないのですが、分かりやすくいえば)便秘、睡眠障害、うつなどが、パーキンソン病の運動症状に先行するという仮説を発表しました。原因と結果の関係を決定する因子としては、時間関係(前後関係)だけでなく、原因と結果を関連づける共通の因子があることです。 以前は、便秘、睡眠障害などは、パーキンソン病の合併症(パーキンソン病発症後に起こる)と考えられておりました。Braak教授の仮説は、便秘が振戦に先行するから、便秘が原因で振戦が起こると考える訳ではありません。便秘も振戦も何等かの共通の因子で起こる。共通の因子としてアルファーシヌクレインが認められたのです。「何等かの原因で、アルファーシヌクレインが蓄積し、神経が障害され、便秘、睡眠障害、振戦、固縮等が起こる。」ということになります。 では、便秘や睡眠障害はどう呼べばいいのでしょうか? これも、パーキンソン病の症候といいます。「便秘、睡眠障害などが、パーキンソン病の症候と認知された」ことが"パラダイムシフト"です。
次に、それぞれの症候は全く個別なものなのでしょうか?
それらの症状は有機的に、各々関連していると思われます。運動症状が改善すれば、便秘、睡眠障害、うつなどが改善されます。 逆に、便秘、睡眠障害、うつなどを改善させれば、運動症状も改善します。また、「パーキンソン病の運動症状を早期から改善させることが、パーキンソン病の進行を遅らせるのではないか。」と言う考えがあります。同様に、便秘や睡眠障害を早期から、適切に治療することが、パーキンソン病の進行を遅らせる可能性があると、私は思っております。実際、便秘や睡眠障害に対する私の認識は以前とは異なり、それらの症状のコントロールは、非常に大切であり、それらの症状が改善した結果、パーキンソン病の運動症状が改善した経験があります。
実はここまでが、前置きで、パーキンソン病のリハビリに対する注意は、まず、「パーキンソン病を良く理解することが、非常に大切である。」ということです(当然のことですが、セラピストは、パーキンソン病を理解せずに患者にリハビリを行ってはいけません。そのために当院では、定期的に勉強会を行っております)。 その症状の一つに「疲労」があります。実際、リハビリをやりすぎて(絶対的には多くないのですが、その人にとっては多かった)、かえって、パーキンソン病の症状が悪化した経験があります。患者一人一人の(複数の)症状、その日の状態に応じた、適度なリハビリ、非常に難しいのですが、この適度が大切です。 「目に見えない症状」を理解することは、非常に重要です。 主な「目に見えない症候」をスライドにしましたので、御参考となれば幸いです。