パーキンソン病のリハビリに当たってのワンポイントアドバイス(4)
-「21世紀のリハビリテーション病院」に向けて-

2012年7月27日
屏風ヶ浦病院 副院長 神経内科
阿部 仁紀

 7月20日横浜ベイシェラトンホテルで、207名の当院職員が参加して、納涼会が行われました。屏風ヶ浦病院としては最後の(9月より屏風ヶ浦より並木に移転し、「横浜なみきリハビリテーション病院」として生まれ変わります)、「 めの挨拶」を承りましたので、私の「リハビリテーションに対する思い」を述べました。当院の全職員が、ソーシャルワークという言葉を理解し、よりソーシャルワークに長けた病院となる一助となればと思っております。また、当院外の皆さんには、「当院のリハビリテーション」の理解の一助となれば幸いです。


 4月に採用になった方々は、3ヶ月が経ち慣れましたか?初めての事、わからない事だらけで、精神的にも不安定になっておりませんか?自分だけで悩みを抱え込まないで、友達や仲間、職場長などに相談し、早く屏風ヶ浦病院に慣れて欲しいと思います。皆様には、屏風ヶ浦病院の新たな活力になって下さることを、強く期待しております。(拍手)
 さて、 西洋でいうところのsociety社会が、実際に日本にあるかどうかの議論は別にして、ソーシャルワーカーという新たな職業を国が作って制度の面から社会を構築しようとしているのは明らかです。今まで、我々医療人は、病気を考える際に、ミクロレベルとマクロレベルとの、2つの視点で患者を診ておりました。すなわち、ミクロ、細胞・組織レベルとマクロ、個体・個人のレベルです。21世紀の医療は、これに、人と人とのつながり、すなわち社会の視点が加わるようになっております。「リハビリテーション」とは「社会復帰」を意味します。患者さんは、障害を受けて、社会における役割が変ります。「社会復帰」とは、新たな役割、新たなネットワークを築くことです。細胞・組織がダメージを受けると、正常な細胞たちが新たなネットワークを作ります。これが、細胞・組織レベルの「社会復帰」。麻痺した手足を動かして、患者さんが/を訓練する、これがマクロ、個人レベルの「社会復帰」。患者さんが新たな人間関係を築く、これが社会レベルの「社会復帰」。そして、その人間関係を創るお手伝いをすることがソーシャルワークです。ソーシャルワークという新たな言葉を我々組織全体が理解することが大切と思われます。…当院では、医療ソーシャルワーカーの皆さんが、患者さんの障害の程度に応じて、在宅から転院まで、きめ細かく対応しております。在宅といっても、今まで果していた役割を果せなくなる場合もあり、そこで新たな家族関係が築かれるよう、お手伝いをすることになります。…医療ソーシャルワーカーの皆さん、いつも熱心な対応ありがとうございます。(拍手)…しかし、私は、ソーシャルワーカーは、当院の医療ソーシャルワーカーだけでなく、当病院すべての職員がソーシャルワーカーと思っております。患者さんは、人生の大先輩です。患者さんを尊重すること、自分が尊重され、(病院)社会の一員であることを患者さんが自覚することが、ソーシャルワークの第一歩です。朝、患者さんに挨拶すること、トイレを介助すること、食事を介助すること、24時間全てがリハビリであり、ソーシャルワークです。障害を受けた組織を残しながら、新たなネットワークを築く医療、実はこれは、この病院がたどってきた歴史でもあります。今までの古い建物というハンディキャップを持ちながらも、いや、だからこそ、人と人とのつながり、ソーシャルワークで補って今日を築き上げております。いよいよ、新病院に移ることになります。この病院で培われたノウハウに新しい環境が加わることで、新病院は日本一のリハビリ病院となることは、間違いございません。
 さて、院長におかれましては…院長の人望のもと、優秀な医師がどんどんと集まり、神経内科も専門医が3名と充実しました。…また、来月からは新たな女性の先生も着任する予定で、女性の医師が3人となります。入院患者さんの家族を見ておりますと、いつの間にか女性同士でネットワークが出来ております。このように女性は、ネットワークを作ることに長けていると思われます。女性の医師を集めソーシャルワークに長けた病院を作ろうとしている院長には、先見の明があると思われます。また、病院外の活動では、本年度から、神奈川県病院協会の理事となられ、県の立場から、病院間の連携をより強めるソーシャルワークをなさって居られます。ソーシャルワーカーのお手本である院長に感謝の念を込めて、拍手をお願い致します。(拍手)...病院内を見渡しますと、回復期リハ病棟に関しましては、当院の柱であり、他病院からの信頼が厚く、安心して患者さんを任せられるとの話が聞かれます。これも、皆様の努力の賜物と思っております。(拍手)…また、院長の司会のもと、磯子区公会堂で行われた市民公開講座も、約300名の患者・家族の参加のもと、大好評のうちに終了いたしました。(拍手)…公開講座のDVDも作られております。御興味のある方は、お貸しいたします。…障害者病棟は、驚異的な病床稼働率を誇っており、それも、病棟スタッフのお陰と思われます。本当にお疲れ様です。(拍手)…また、障害者病棟は、神経難病病棟としての役割もあり、パーキンソン病のリハビリを含めた医療がここ横浜で認知されつつあります。夢は大きく、「日本一のパーキンソン病の治療センター」を目指し日々精進しております。(拍手)…リハビリ科に関しましては、この病院の中核であり、96名という数だけではなく、質も非常に高いと思われます。おかげさまで、外来通院されるパーキンソン病の患者さんもどんどん増えて、「この病院でリハビリを受けるのが生きがいだ。」と仰る患者さんもおります。リハビリ科は当院の誇りであり、ソーシャルワークの手本です。それも、リハビリスタッフの日々の努力の賜物と思っております。「日本一のリハビリテーション」を目指し、これからも日々精進し、進化し続けて下さい。(拍手)…看護部の皆さんに関しましては、…横浜脳卒中リハ連携研究会、通称Y-CIRCLEという研究会があります。先日行われた急性期病院と回復期リハ病院の症例リレーでは、回復期リハ病棟の看護師さんに発表して頂き、身体面だけではなく、精神面も重視した当院の非常にきめ細かな看護が理解できました。看護のお手本のような発表でしたので、8月7日には、この発表を当院でもして頂く予定です。皆さんも御参加頂ければ、当院の 看護・介護とはこのように素晴らしいのだ、ということが実感できると思われます。(拍手)…障害者病棟に関しましては、神経難病患者さん等の看護・介護、ありがとうございます。大声で泣いて、大変困った患者さんがおられました。大声で泣かれたときには、私も、心のなかで、助けてくれと叫んでおりました。そんな時に、さーっと来て、トイレに誘導してくれたり、なだめてくれたり、この場で名前は言いませんが、看護師さん、看護助手さん、本当に感謝しております。(拍手)…看護部の皆さん、これからも、看護部長代行を中心に一致団結し、我々を支えて下さい。(拍手)…栄養科の皆さん、お疲れさまです。衣食住は生活の基本です。特に、食事は、生活の満足度を上げる意味でも、非常に大切です。私も早番の検食で、とても美味しく頂いております。新病院では、きめ細かな栄養管理と味に、さらに磨きがかかるものと大変期待しております。(拍手)…病院の窓口、病院の顔である医事課の皆さん、いつも笑顔でご苦労様です。医事課の皆さんは、品がありますよね。「医療は、品decencyが最終的には試される」というようなことを、神経内科の岩田誠先生が仰っていたのを最近聞き、まあ、こういう言葉を使ってみたい、というのもあるんですが、decency "凛とした品" を大切に、これからも、宜しくお願い致します。(拍手)…事務長…新病院開設に当たっての準備ご苦労様です。回復期リハビリ病院として、この病院が回復したのも、事務長のお陰です。皆さんも私の話で、そのことがわかっていただけたと思われますが、拍手で、その気持ちを表して頂ければ幸いです。(拍手)…事務次長、事務長のサポートありがとうございます。今後とも宜しくお願い申しあげます。(拍手)…総務課長を筆頭に、総務課の皆さん、そして経理課の皆さんの仕事は、実際に医療には表れない病院組織の根のようなものですが、根がしっかりしてこそ、病院は安定します。これからも、この病院をしっかりと支えて下さい。(拍手)…薬剤部の皆さん、日々の薬の管理ありがとうございます。薬剤の使用に関する、細かな情報提供、これからも宜しくお願い致します。(拍手)…検査科の皆さん、非常に質の高いエコーありがとうございます。当院では、夜間睡眠ポリフラフなど他院ではあまり行なっていない検査なども行なっております。今後とも、宜しくお願い致します。(拍手)…放射線科の皆さん、緊急での検査依頼の素早い対応や、画像で、異常があるところを拡大する気配り、ありがとうございます。今後とも色々教えて下さい。(拍手)…さて、9月には新病院への移転が待ち受けております。準備等で、今までとは異なった気遣いが必要と思われますが、全病院職員が一丸となって対処すれば、上手くいくと思います。また、社会は、二極化といいますか、厳しさが増す状況ですが、職員全体で、気持ちを一つに念じれば、乗り越えていくことができると思われます。それでは、1本締めを行いたいと思います。皆様、御起立願います。
 「それでは、皆様のご健康と、屏風ヶ浦病院、そして横浜なみきリハビリテーション病院のこれからの発展を祈念いたしまして、一本締め。」...


 以上が、私の「締めの挨拶」でした。少し補足説明をさせて頂きます。 下線部に対して、柳父章氏は「翻訳語成立事情」 1)で、  
 やがて「社会」という訳語が造られ、定着した。しかしこのことは、「社会」‐society に対応するような現実が日本にも存在するようになった、ということではない。
と記しております。非常に尤もな指摘です。日本のsociety「社会」を「世間」 2)と呼んでいる人たちも居りますが、societyが、その地、その国で共通なものを持ちながら、制度、習慣などの違いから独特なもの「日本の社会」「日本の大衆」あるいは「世間」となると思われます。日本のなかでも、その地、その地で、社会は異なります。医療を含め「他者」 3)に対する思いやりが強い「社会」は、人がどんどん増え、繁栄すると思われます。また、日本の医療には、日本独自の良さがあります。日本の良さに磨きをかけることが、グローバル化に対処する最良の方策と考えております。


看護・介護とは…フローレンス・ナイチンゲール(1820-1910)は、看護を「看護とは、新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさなどを適切に整え、これらを活かして用いること、また、食事内容を適切に選択し適切に与えること―こういったことのすべてを、患者の生命力の消耗を最小にするように整えること、を意味すべきである」 4)としております。ナイチンゲールの看護理論の中心概念は「環境」です。患者の周りの(人を含んだ)すべてのものを「環境」と捉えて、自然治癒力を高める環境整備の重要性を唱えております。この意味では、看護・介護とソーシャルワーク、リハビリテーションは似ている。というか、ナイチンゲールの精神・哲学によって、ソーシャルワーク、リハビリテーションの理念が作られていると思われます。24時間全てがリハビリであり、ソーシャルワークです。そして、看護・介護がその礎となっております。

参考文献

  1. 「翻訳語成立事情」柳父章 岩波新書
  2. 『「世間」とは何か』阿部謹也 講談社現代新書
  3. 『全体性と無限』エマニュエル・レヴィナス 岩波文庫
  4. Nightingale F: Notes on Nursing: What it is, and what it is not. New edition, revised and enlarged. Harrison, London, 1860『看護覚え書-看護であること、看護でないこと-』現代社