パーキンソン病のリハビリに当たってのワンポイントアドバイス(6)
-人の構造と機能-
2012年9月10日
横浜なみきリハビリテーション病院 副院長 神経内科
阿部 仁紀
前回のコラムの補足です。
医師の視点として、ミクロ、マクロ、社会を紹介しましたが、最も基本となる視点は、structure(構造)とfunction(機能)です。Structureはstatic(静的)、functionはdynamic(動的)です。Structure を考えるのが解剖学や病理学(病気のstructure)で、functionのそれが、生理学(生理機能学;physiology)や病態生理学です。
ベンツを考えてみます。いくら外見上立派であっても、実際に走るかどうかはわかりません。しかし、走らない(functionの障害)ということは、内部のstructureに異常があるとういことです。外見のstructureでは、functionは予想できません(いや、ある程度は予想できます)。何か異常があるとき、structureに異常がなければ、functionに異常があるのではと考えます。しかし、マクロレベルでstructureに異常がなくても、ミクロあるいは分子レベルではstructureの異常ということもあります。
MRIという脳のstructureを見る機械があります。脳梗塞や脳腫瘍など脳の異常構造が診断できます。しかし、脳に傷がついていたり、脳が小さくなっている(萎縮)しているから、異常というわけではありません。(脳にしみがついているから、即異常というわけでもありません。)歳を経れば、脳だけでなくすべての臓器がstructureもfunctionも変化していきます。若いときに比べればすべての臓器が異常です。でも、それでバランスをとって、うまく機能しています。見た目は年季が入って色あせた、故障しがちなベンツでも、それをうまくメンテナンスしながら乗るのがいいと仰る人もいます。代償機能というものがあります。何かが衰えると、別な何かが代償します。人の身体機能の衰えは、精神が代償します。Structureだけを観ていたのでは、当然ながらfunctionは理解できません。Structureとfunction両方を診ることで、両方を診る力が養われるのです。精神だけ観ていたのでは、精神は理解できません。Structureとfunctionが診ることができてはじめて、精神を診ることができるのです。
Physiotherapist/physical therapist(PT;理学療法士)は、physiologyを熟知し、その人のできるだけのfunctionを目指し、治療を行う人です。リハビリの文脈では、「障害」とは、仕事や活動に制限があるということです。患者さんの ‘日々の生活の活動性’(activities of daily living;ADL)を評価するものにmodified Rankin Scale(mRS)というものがあります。mRS 1とは「症候はあっても明らかな障害はない」ことです。たとえ足が義足でも、仕事や活動に制限がなければ、障害者であっても障害はありません。リハビリが目指すところはこの点です。