2019年 新年度のご挨拶

2019年4月1日
横浜なみきリハビリテーション病院 院長 神経内科
阿部 仁紀

全職種によるチーム医療とは

以下の文章は、4月1日に行った全体朝礼 1)です。

 皆さん、おはようございます。新元号が決まる、新しい時代が始まる日に新入職員の皆さんを迎えることができ、本日は非常に喜ばしい日と思われます。新入職員の皆さん、横浜なみきリハビリテーション病院にようこそ。

 まず、新入職員の皆さんに向けてのメッセージがあります。当院のモットーは『全職種によるチーム医療です』 2)。フローレンス・ナイチンゲールは、『看護覚え書』 3)のなかで、「看護とは、新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさなどを適切に整え、これらを活かして用いること、また、食事内容を適切に選択し適切に与えること―こういったことのすべてを、患者の生命力の消耗を最小にするように整えること、を意味すべきである。」としております。

 ナイチンゲールの看護理論の中心概念は「環境」です。患者さんの周りの我々を含んだすべてのものを「環境」と捉えて、自然治癒力を高める環境整備の重要性を唱えております。

 新入職員の皆さん、皆さんが、これからは患者さんにとって重要な、非常に重要な環境になります。頑張ってください。ただ、頑張るだけでなく、良い環境になるには、病気のことをよく知る必要があります。『看護覚え書』のなかに「見つめられていると思わせるのは良い看護ではない」とあります。パーキンソン病をもった患者さんでジスキネジアといって手足や体幹がくねくね動く現象を示す方がおります。もちろん本人がつらいジスキネジアがありますが、本人が自覚していないジスキネジアもあります。そのようなジスキネジアをみて、つらそうと思うのは共感ではありません。

 ナイチンゲールの『看護覚え書』は今から約160年前に書かれたものです。しかし、全く古びておりません。看護だけでなく患者さんに対する心構えの原点だと思われます。一度は読んでみてください。そして、これを何年か後に、また読んでみてください、きっと新たな気付きがあると思われます。何度読んでも経験を積む毎に、新たな気付きがあると思われます。良い書物とは新たな解釈ができるものです。そして、われわれに勇気を与えてくれるものです。私もこの度、また、読んでみましたが、新たな気付きがありました。

 「初心忘るべからず」 4)という言葉があります。こちらは今から約600年前に世阿弥によって書かれた『花鏡(かきょう)』という書物の中にあります。皆さんにとって初心とはなんでしょう?学校に入る前の初心、卒業時の初心、そして今、当院で働き始めるときの初心。これらは、何かに書き留めて残しておくのが、いいのではないでしょうか?初心は忘れてしまうのです。また、記憶とは変わってしまいます。だからこそ、「初心忘るべからず」という600年前の言葉が今も残っているのです。これから、いろいろと大変なことがあると思われますが、初心を忘れず、ナイチンゲールの精神を糧にして、なんとか乗り切って欲しいと思います。

 また、「人はなかなか変われない。」といわれております。しかし、“環境“は人を変えます。Personality(人格)、その語源はラテン語のpersona(仮面)です。人はたくさんの仮面を持っております。例えば、医師であれば、医師の仮面、父(あるいは母)の仮面、(親が生きていれば)子供の仮面、友人と会うときの仮面など、その場、その場で、話し方も異なります。たくさんの仮面を持っております。つまり、話す相手(環境)によって人は自然に変わります。「朱に交われば赤くなる」ということわざもあります。皆さんも早く、「横浜なみきリハビリテーション病院」の色に染まってください。新しい仮面をつくってください。

 新入職員以外の方々にとっても、新たな人々が入って来ることで、当院の色も少しずつ変わっていきます。我々にとっても、新たな人々は新たな環境なのです。お互いに尊重しあって、新たな環境、患者さんにとってよりよい環境になるように皆さん一致団結して、『全職種によるチーム医療』の力を強めるように、一生懸命努力していきましょう。

  1. 当院では、毎週月曜日8:40から、全体朝礼を行っております。対象は全職員です。2名の職員、そして、看護部長、事務長、院長の順に職員の前でスピーチを行ないます。スピーチの内容は自由です。4月1日だけは特別で、8:30から新入職員の辞令交付式と看護部長、事務長、院長の順でスピーチがありました。
  2. 全職種によるチーム医療:医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、管理栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなどがチームとなって患者さんをみる「多職種連携によるチーム医療」が一般的だと思いますが、当院では全職員がチームとなって患者さん一人ひとりの病気を理解し、適切な対応をとれるよう務める「全職種連携によるチーム医療」に取り組んでいます。例えばパーキンソン病をもった患者さんの声が小さかったり動作がゆっくりしていることを全職員が正しく理解することで、医事課の職員など直接医療に関わらないスタッフが「早くしてください」と思うようなことはありません。ジスキネジアという現象を知らない職員はいないはずです。全職員が、朝の朝礼や全職員対象の勉強会などで、病気のことを理解し、自分が患者さんの立場だったらどう思うかを考え、患者さん一人ひとりにとってよりよい環境になるよう努力しています。
  3. Nightingale F. Notes on Nursing: What it is, and what it is not. New edition, revised and enlarged. Harrison, London, 1860.(湯槇ます、薄井坦子、小玉香津子、田村眞、小南吉彦 訳. 看護覚え書―看護であること 看護でないこと―(改訳第7版). 東京: 現代社; 2012: p14-15.)
  4. ここでの初心とは、新しいことを始めるときの気持ち、だんだん慣れてくると忘れてしまう気持ちです。「初心忘るべからず」という世阿弥の言葉には続きがあり、
    • この句、三箇条の口伝あり。
    • 是非初心不可 ( ぜひのしょしんわする ) ( べからず )
    • 時々初心不可 ( じじのしょしんわする ) ( べからず )
    • 老後初心不可 ( ろうごのしょしんわする ) ( べからず )
    • この三、よくよく 口伝 ( くでん ) ( すべし )
    との文章が『花鏡』に記されております。“世阿弥の初心”は非常に深い意味があります。
    世阿弥. 風姿花伝・花鏡. 小西甚一編訳. 東京:たちばな出版; 2018: p310.