パーキンソン病のリハビリに当たってのワンポイントアドバイス(5)
-「他者」となって、「他者」を理解する-
2012年9月5日
横浜なみきリハビリテーション病院 副院長 神経内科
阿部 仁紀
前回のコラムの補足です。オリンピックでの「なでしこジャパン」の活躍、感動しました。現代サッカーでは、フォワードが点数を入れるだけではなく、バックスを含め、どのポジションの人も点数を入れることができます。実際、宮間選手や澤選手などフォワード以外の選手がしばしば得点をしております。言ってみれば、全員が攻撃人であり、守備人です。もちろん、自分の役割を果すことが最も大切なことですが、自分の役割を高めるためにも、
「他者」となって、「他者」を理解することは大切です。お互いの他者を理解し合っている組織/team、teamwork力の高い組織は、他者(他の組織)を理解でき、他者から理解される組織です。私が前回のブログで言いたかったことは、このことです。医師が、医師の視点だけではなく、リハビリのスタッフや看護師さんの仕事を理解し指示を出すのは当然です。しかし、医師だけではなく、看護師さんも、医師の、セラピストの、ソーシャルワーカーの、医事課(decency “凛とした品” )の或いは、経理(利益)の視点を持つことが大切で、その他のスタッフも同様です。病院人は、患者さんのことを理解するのはもちろん、いや、患者さんから理解されるためにも、他者(他職種の人達)の役割を理解すべきと考えます。
では、医師の視点について…ミクロの視点とは。神経内科は、文字通り神経を扱います。神経組織は、4種類の細胞群から構成されます。神経細胞(ニューロン)、オリゴデンドログリア、ミクログリア、アストロサイトです。パーキンソン病は、ニューロンにアルファーシヌクレインが蓄積する病気ですが、オリゴデンドログリアにアルファーシヌクレインが蓄積すると多系統萎縮症と呼ばれます。大脳皮質基底核変性症とは、大脳皮質と基底核と言う、脳の構造が障害され、タウという物質がニューロンやアストロサイトなどに蓄積します。かくの如く、医師にとってミクロの視点は必須の知識です。マクロの視点とは、症状です。パーキンソン病、多系統萎縮症、皮質基底核変性症は、各々症状が異なります。また、パーキンソン病患者さんも、一人ひとり症状が異なります。一人ひとりの体に合わせた服を作る仕立て屋さん(tailor)のように、その一人ひとりの異なった症状に合わせた治療が「テーラーメイドの医療」「仕立て屋さんの医療」です。テーラーメイドの医療は別に新しい概念ではありません。アリストテレス
1)(384B.C-322B.C)は紀元前に
『もし誰かが、個々についての経験なしにただ概念的に原則を心得ているだけであるなら、したがって、普遍的に全体を知っておりはするがそのうちに含まれる個々特殊について無知であるなら、しばしかれは治療に失敗するであろう。けだし、治療さるべきは個々のあの人この人であるから』
と述べております。さすが、2000年以上残っている言葉です。しかし、病気を治療するには、知の側面は必須ですが、これだけでは足りません。情/無意識の側面も大切です。リハビリは手、足を動かすことが基本ですが、手足を動かすイメージが大切です。
患者さんの病気に対する反応は、ショック→受容→やる気→回復といった過程を辿ります。患者さんの “ 動かそうとする気 ”が大切です。周りの人の意識・無意識な “ ‘動け’という気 ”が大切です。周りの気が患者さんに伝わります。患者家族やリハビリセラピストだけではなく、病院職員の(患者さんを良くしようとする)全/善意識が、患者さんに伝わり、患者さんがやる気を与えられ、患者さんが、意識/無意識にやる気がでるのです。
註
「他者」となって、「他者」を理解する…病気になる、今まで「他者」と思っていた自分が突然、「他者」になります。病気にならずとも、そうなったと思ってみると、別の視点が現れます。
参考文献
- アリストテレス:形而上学(上), 岩波文庫