脳卒中とは ー いま起きている脳卒中革命について
2021年5月24日
横浜なみきリハビリテーション病院 院長 脳神経内科
阿部 仁紀
コロナ禍で新型コロナウイルスの話題ばかりです。しかし、その裏では、脳卒中治療で大革命が起こっており、一般医療も非常に重要ですので、コロナ禍で超急性期・急性期医療に携わっている救急隊の方々を含めた医療従事者の方々への感謝の気持ちを示す意味でも、ここで述べさせていただきます。
脳卒中とは、「卒」は卒然、「中」はあたるといい、「突然として邪風にあたる」「何かにあたったように倒れる」、英語のstroke、apoplexy、brain attackも「突然何かが起こる(突然倒れる、突然意識がわるくなるなど)」、患者さんを外から見た現象・結果を表す言葉です。Cerebrovascular disease(脳血管障害)という言葉もあります。心臓では、cardiovascular disease(心血管障害)があります。心血管障害は心臓の障害(心不全)と心臓を栄養する血管(冠動脈)の障害(狭心症、心筋梗塞)を意味します。
一方、脳血管障害は脳を栄養する血管の障害という意味で、こちらは原因を示す言葉です。脳の障害とその神経障害の現象として現れる脳卒中(意識障害や手足の麻痺など)は脳血管障害の結果です。脳梗塞(brain infarction)も脳血管障害(原因)の結果を示す言葉です。脳血管障害には2種類の機序があります。血管が詰まるか破れるか。血管が詰まるのが脳梗塞、破れる方は、脳の表面の血管が破れるのが「クモ膜下出血」、脳内の血管が破れるのが脳(内)出血と呼ばれます。
脳梗塞は大きく2つの分類があります。NINDS CVD-III分類 (文献1)とTOAST分類 (文献2)です。学会(アカディミズムの世界)ではembolic stroke of undetermined source (ESUS:塞栓源不明の脳塞栓症) (文献3)が注目されておりTOAST分類が比較的多く用いられていますが、ここでは、NINDS CVD-III分類を御紹介いたします。大きく3つの見方があります。①発症機序(メカニズム) ②臨床病型 ③病巣や灌流域による症候(いわゆる部位別症候)です。
脳梗塞(Brain infarction)
a) 発症機序 | b) 臨床病型 | c)
病巣や灌流域による症候
[symptoms and signs by site(distribution)] |
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脳血管は内頚動脈、前大脳動脈、中大脳動脈、これらを内頚動脈系(あるいは前方循環系)といいます。椎骨動脈、脳底動脈、後大脳動脈、上小脳動脈(superior cerebellar artery: SCA)、前下小脳動脈(anterior inferior cerebellar artery: AICA)、後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery: PICA)などは椎骨脳底動脈系(あるいは後方循環系)といいます。つまる血管によって大体の症状や予後が分かります。逆に症候によってつまった血管(原因)が推定されます。血管は還流している脳の領域がある程度決まっております。めまいは椎骨脳底動脈系の症状です。具体的には、右中大脳動脈水平(M1)部で閉塞する(原因)とCTやMRIで右MCA領域の広範な梗塞巣(画像的結果)が出現します。症状としては半側空間無視、片麻痺に対する病態失認など(これらを劣位半球症状といいます)、重度の左片麻痺(左上肢優位の上下肢の麻痺)、左半身の感覚低下などが出現します(脳卒中)(臨床的結果)。またメカニズムとして血栓性は脳血管にアテロームができてじわじわ血管が細くなるのでその間に側副血行路ができますが、塞栓性は閉塞部位以外の血管や心臓からの血栓が飛んでいきなり血管が詰まるので梗塞巣が大きく、また、梗塞巣が出血しやすいのです (文献4,5)。つまった血管が原因といいましたが、原因の原因として、心原性脳梗塞では非弁膜症性心房細動(non-valvular atrial fibrillation: NVAF)や心筋梗塞後の心不全で左房内に血栓ができて、その血栓が脳血管に飛んでつまる、あるいは卵円孔開存症などがあります。アテローム血栓性脳梗塞(臨床病型)では発症機序として動脈硬化(血栓性)だけでなく、(頭蓋外)内頚動脈狭窄症や頭蓋内外の動脈硬化(アテローム)血管から血栓が飛んで動脈がつまる塞栓性(Artery to Artery embolism)も多く認められます。


脳卒中の治療は、その原因によります。クモ膜下出血は脳の表面の血管が破れるのですが、その原因は脳動脈瘤が破れる(破裂動脈瘤)ので、再破裂を予防するために、こぶの頸部をクリップではさむ(neck clipping)やコイルで詰める治療を脳神経外科医が行ないます。脳出血の治療は基本的に出血巣が吸収されるのを待つことで、血圧コントロールが基本です。血腫を開頭(あるいは神経内視鏡をもちいて)除去する場合があるので脳神経外科医が治療にあたりますが、出血巣が小さくて手術の可能性がなければ脳神経内科医でも可能です。現在、急性虚血性脳卒中(acute ischemic stroke: AIS)は血栓回収術が主流です。麻痺や意識障害などの現象、すなわち脳卒中がおこったが、血栓溶解療法や血栓回収療法で血管の閉塞がなく、梗塞巣もない病態も起こりうる、そのような病態は、急性虚血性脳卒中と呼ぶしかないのでしょう。現在、閉塞が改善され、予想される梗塞巣よりかなり小さな梗塞巣となった病態をそのプロセスも含みAISと呼んでおります。特に今までICA末梢やM1閉塞はrtPAの効果が少なく致命的か助かっても重度の障害が残っていたのですが、このような治療で劇的な効果が期待できます。現在脳梗塞治療には一つの革命が起こっております。治療は血管内治療医がおこないます。その適応外の場合は脳神経内科医や脳神経外科医が脳梗塞の治療にあたります。
「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第 4 版 2020 年 3 月 日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本脳神経血管内治療学会」では、下記のように述べられております。
1)発症早期の急性期脳梗塞では、①前方循環系の主幹脳動脈(ICA または MCA M1 部)閉塞と診断され、②発症前の modified Rankin scale (mRS) (文献6, 7)スコアが 0 または 1、③頭部CTまたはMRI拡散強調画像で Alberta Stroke Program Early CT Score (ASPECTS) (文献8)が 6点以上、④National Institutes of Health Stroke Scale (NIHSS)スコア (文献9)が6以上、⑤年齢18歳以上のすべてを満たす症例に対して、遺伝子組み換え組織プラスミノゲン・アクティベータ(rt-PA、アルテプラーゼ)静注療法を含む内科治療に追加して、発症6時間以内に ステントリトリーバーまたは血栓吸引カテーテルを用いた血管内治療(機械的血栓回収療法)を開始することが勧められる【グレードA】。
2)最終健常確認時刻から6時間を超えたICAまたはMCA M1部の急性閉塞が原因と考えられる脳梗塞では、発症前の mRS スコアが0または1で、NIHSSスコアが10以上かつMRI拡散強調画像でASPECTSが7点以上である症例に対して、最終健常確認時刻から16時間以内に本療法を開始することが強く勧められる【グレードA】。また、頭部CT灌流画像またはMRI拡散強調画像における虚血コア体積と、神経症状あるいは灌流画像での灌流遅延領域にミスマッチがあると判断される症例に対し、最終健常確認時刻から24時間以内に本療法を開始することが勧められる【グレードB】。
なぜ血管が閉塞しても24時間たってもレスキューできる虚血巣(ペナンブラといいます)があるかといえば、人によって側副血行路(例えば下図;leptomeningeal anastomosis 軟髄膜吻合)が異なるからです。つまり、同じ血管がつまってもレスキューできるかどうかは、人によって異なります。これまでは時間で治療が決まっておりましたが(time-based)、現在は、組織が死んでいるかどうか(tissue-based)の治療となっており、血栓回収療法が治療の概念を根本的に変えました。つまり、いままでなら死にいたるような重篤な閉塞型脳血管障害でも、現在では最終健常時刻から24時間以内に血栓回収ができる施設に搬送されれば、ある程度の条件が整えば(diffusion-perfusion mismatchなど)、rt-PAに追加して血栓回収療法を施行することで死に至る可能性が少なくなり、後遺症も軽くなるということです。脳卒中では今大革命が起こっております。超急性・急性期での24時間・365日の懸命な治療を想像することが、その後を引き継ぐ脳卒中リハビリテーションのモチベーションともなると思われます。
治療に関しましては、 日本脳卒中学会ではホームページ に治療ガイドラインが閲覧可能です。
ちなみに、循環器科(循環器内科と循環器外科・心臓血管外科)と脳神経内科そして脳神経外科は非常に仲が良く日本循環器学会と日本脳卒中学会は2021年3月に 「脳卒中と循環器病克服第二次5か年計画 ストップCVD(脳心血管病) 健康長寿を達成するために」を作成・公表いたしました。私にも非常に立派な冊子が送付されてきました。Webでも見ることが可能です。
補足;Leptomeningeal anastomosis 軟髄膜吻合;例えば、中大脳動脈(MCA)が閉塞しても前大脳動脈(ACA)や後大脳動脈(PCA)から血流(血液)をある程度補うことができます。

文献
- Special report from the National Institute of Neurological Disorders and Stroke. Classification of cerebrovascular diseases III. Stroke 1990; 21(4); 647-676.
- Adams HP, Bendixen BH, Kappelle LJ, et al: Classification of subtype of acute ischemic stroke. Definitions for use in a multicenter clinical trial. TOAST. Trial of Org 10172 in Acute Stroke Treatment. Stroke 1993; 24: 35–41.
- Hart RG, Diener HC, Coutts SB, et al: Embolic strokes of undetermined source: the case for a new clinical construct. Lancet Neurol 2014;13: 429–438.
- 阿部仁紀, 丹野善博, 渡辺多佳子, 杉山泰二, 塚本哲朗, 山本悌司. 出血性脳梗塞の臨床的検討. 脳卒中 1996; 18(6) 628 – 628.
- 阿部 仁紀, 丹野 善博, 渡辺 多佳子, 杉山泰二, 熊谷智弘, 塚本哲朗, 山本悌司. 出血性脳梗塞の臨床的検討. 第18回東北脳血管障害懇話会 1996; 65 – 72.
- Van Swieten JC, Koudsraal PJ, Visser MC, Schouten HJ, van Giji J. Interobserver agreement of handicap in stroke. Stroke 1988; 19(5):604-607.
- 篠原幸人, 峰松一夫, 天野隆弘, 大橋康雄. mRS信頼性研究グループ. Modified Rankin Scaleの信頼性に関する研究―日本語版判定基準書および問診票の紹介. 脳卒中 2007; 29, 6-13.
- Barber PA, Demchuk AM, Zhang J, Buchan AM. Validity and reliability of a quantitative computed tomography score in predicting outcome of hyperacute stroke before thrombolytic therapy. ASPECTS Study Group. Alberta Stroke Programme Early CT Score. Lancet. 2000; 355:1670–1674.
- Brott T, Adams HP Jr, Olinger CP, Marler JR, Barsan WG, Biller J, Spilker J, Holleran R, Eberle R, Hertzberg V, et al. Measurements of acute cerebral infarction: a clinical examination scale. Stroke 1989; 20: 864-870.